【終了】田中静士の能面展

10 月のみのおてならいでは、箕面市民 在野の彫刻愛好家 故田中静士さんの能面作品の展示を併催いたします。北九州へ単身赴任の折、仏像彫刻を手習い。その後、能面の深い魅力に出会われ、生涯続けられた作品の秀作を展示いたします。

 

日 時:2018 年10 月14 日(日)10:00 ~ 16:00

会 場:箕面市中央生涯学習センター3 階「美術室」

入場料:無料


田中静士 経 歴

Tanaka Seiji profile

1926年3月22日(大正15年)香川県生まれ。

旧制中学時代から彫刻美術に傾倒するも、中国戦線の激化しつつある1938年、やむなく広島県江田島の海軍兵学校に進学、卒業後海軍将校となり、1945年の終戦を迎えた。

1948年(昭和23年)大阪に転居、箕面に居宅をかまえる。1974年(昭和49年)から北九州市黒崎で運送会社を経営。この地で趣味の彫刻教室に通いはじめ、1994年(平成6年)68歳でリタイアの後、少年時代より夢だった仏像彫刻、そして能面彫刻の愛好家として日夜制作にいそしんだ。2017年3月20日没 享年92歳。


田中静士の能面展 開催にあたって

 

本展の開催は、ご子息の田中令三さんが知人を介して、私どもカルチャー倶楽部に能面の寄贈を申し出られたことが発端である。既に鬼籍に入られた田中静士さんを私たちは存じ上げない。

 

ご寄贈いただいた能面を鑑賞させていただき、面(おもて)の向こう側に、能面打ちの楽しみ、面白み、熱、さらに、工夫や創意を感得し、生前出会うことのなかった氏に対して、なんともいえない親しみを覚え、ご家族の了承を得て本日の開催に漕ぎつけた。

 

生前、氏は「本面を写す」、つまり、室町時代から 安土桃山時代にかけて打たれた面を〈本面〉に、それらに付いた汚れまでそっくりそのまま模作する〈写す〉という、江戸時代からの面打ちの基本をよく口にされていたそうだ。

 

歴史に名品といわれる面(おもて)を研究する専門家からすれば、個人の感性や技量に左右されるこれらの作品に違和感や疑念が残るかもしれない。似て非なるものを見分ける力は人の脳が持つ特性であり、だからこそ名品が名品として伝来し守られているのだ。

 

ただ、本展ではこうした鑑識や評論の眼は専門家に預けて、目の前にある作品に、直に出会うことからはじめてみたい。そこから、かつて一生活者として確かに生きて暮らした〈人 〉が見えてくる。

 

玄人ではない、素人の手といえばそれまでだが、生涯ふれることのできない〈本面〉を書籍や図録、展覧会のガラス越しに見入ったであろう、作者の気づきや、思いのはじけ、無心に打った没入のひととき。

技量のしばりから放たれ、あこがれへと向かい、やがて自由に羽ばたくイメージのなかに、さくさくと小気味よく刻む手が見えや聴こえはしまいか。

 

亡者の語る能楽を聴くように、無名の手ならいに見聞きし、生きた証を昨日のように目撃する、本展は観るものに過去と平行して湧き上がるライブな今を体験いただくことで伝えたい。

 

私たち生活者はとりたてて語られるものではない。また語られなかった部分にこそ、いつわりのない、その人、その暮らしの真実が宿っている。無名の生活者の手による文化的営為こそがさざれ石の、やがて巌となり、この国をつくるのだ、と。

 

田中静士さんを私たちは知らない。でも今日出会うことができる。

 

それらは、耳を澄ませたときに、目をこらしたときに見えてくる、決して無くならない、この国を支え続ける宝ものに違いない。

 

平成30年10月吉日

カルチャー倶楽部    

みのおてならい主宰

福住めぐみ


◎開催会場

箕面市中央生涯学習センター

箕面市箕面5-11-23

(メイプルホール内)